最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2890号 判決 1950年4月11日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大西和夫の上告趣意は別紙添附の書面記載のとおりであって、之に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
第一点について。
被告人が箕浦さえから恐喝取得した判示の各物件が、同人所持の連合国占領軍若しくはその将兵の財産に属するものであることは所論のとおりである。然し刑法における財物取罪の規定は人の財物に対する事実上の所持を保護せんとするものであって、これを所持する者が法律上正当に所持する権限を有するか否かを問わず、たとえ法律上その所持を禁ぜられて居る場合でも現実にこれを所持して居る事実がある以上社会の法的秩序を維持する必要からして物の所持という事実上の状体それ自体が保護せられ、みだりに不正の手段によってこれを侵すことを許さぬものであること当裁判所の判例とする処である。(昭和二三年(れ)第九六七号同二四年二月一五日言渡判決)されば箕浦さえが右物件を所持することが所論政令によって禁ぜられて居るとしても被告人等において不正の手段によってこれが所持を奪うことの許されないこと勿論である。従って被告人等において判示の如く、さえを恐喝して之を不法に領得した以上恐喝罪を構成すること当然で論旨は採用に値しない。
第二点について。
然し乍ら原判決引用の被告人に対する検察事務官の昭和二三年五月二二日及び同年六月二日附各聴取書に依れば、同人の供述として判示と同旨の記載があるのであるから原判決が右各聴取書中の被告人の供述記載を引用して同被告人に対する判示犯罪事実を認定したことに所論の違法はなく、しかも右六月二日附聴取書中の供述記載が被告人の真意に出たものでないと認むべき形跡もない。論旨は畢竟原審が適法になした証拠の取捨判断事実の認定を非難するに過ぎず上告適法の理由とならない。
第三点について。
然し乍ら原判決引用の各証拠殊に佐々木弘典に対する検察事務官の聴取書中の同人の供述記載に依れば、同人及び箕浦さえが被告人等の判示恐喝の所為に依り畏怖した結果判示の各物件を被告人に交付したという事実関係が謳はれているのであるから原判決が虚無の証拠に依て事実を認定したとの所論は当らない。本論旨も前点同様証拠の取捨判断事実の認定に対する非難に帰着し上告適法の理由とならないものである。
よって、旧刑訴法第四四六条に従い主文のとおり判決する。
右は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)